
世間で話題となっている、2025年7月5日に「大災難が日本を襲う」というトピックは、予言としてだけでなく、陰謀論の一つとしても取り上げられており、ネットだけではなくメディアでも話題になっています。
2024年のアメリカ大統領選で、トランプ大統領(当時は候補者)は、政界や経済界のエリートが結託した「ディープステート(闇の政府)」が、連邦捜査局(FBI)や政府機関を操っていると発言しました。歴代大統領の誰もが、「ディープステート(闇の政府)」という言葉を発言しなかった中で、トランプ大統領(当時は候補者)が発言したことで、一気に陰謀論でも話題になりました。
魚豊の『ようこそ!FACT』は、「陰謀論」と「恋愛」という一見、相反するテーマを軸に主人公「渡辺」を中心に恋と陰謀が展開される異色の物語です。フェイクとリアルが交錯する現代社会において、私たちは何を信じ、どのように知識と向き合うべきかを問いかける作品となっています。
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この記事を読んでわかることもしくは読んで欲しい人
この記事は、魚豊さん作品『ようこそ!FACT東京S区第二支部へ』をテキストに「陰謀論」に巻き込まれていく主人公の心情を読み解くことで、陰謀論との向き合い方を考察する記事となっています。また、陰謀論に飲み込まれないための処方箋として「教養」を提案する構成となっています。
- 作者、魚豊さん・今井むつみさんの執筆活動や代表作を知ることができます
- 陰謀論にはまる心理的な要因について理解が深まります
- 陰謀論に囚われないための教養を提案します
陰謀論にハマる心理がより深く理解するための補助線として、今井むつみ先生の『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』も併せて紹介していきます。
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著者紹介&作品概要
『ようこそ!FACT』の著者、魚豊(うおと)先生は、独自の視点と骨太なテーマ設定で知られる気鋭の漫画家です。代表作『チ。―地球の運動について―』では、地動説を信じる者たちの信念と葛藤を中世ヨーロッパを舞台に描き、多くの読者から高い評価を得ました。
今井むつみ先生は、本書、『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』がベストセラーになるなど、これまでも、数々の著書を発表されています。今井むつみ先生は、慶応大学SFCでも教鞭をとられ、認知科学、特に言語認知発達、言語心理学などの研究をされている第一人者でもあり学者としても世界的に活躍されています。
本記事で紹介するお二人、著者・魚豊(うおと)先生と、今井むつみ先生のプロフィールと代表作を紹介します。
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著者・魚豊(うおと)先生のプロフィール
著者、魚豊(うおと)先生は、社会派テーマを独自の視点と語り口で描く実力派漫画家として注目されています。幼少期から絵を描くことが好きで、漫画家になることを漠然とイメージしていたとのことですが、アニメ『バクマン』を偶然視たことで漫画を描くことを志したそうです。
代表作『チ。-地球の運動について-』では、16世紀ヨーロッパを舞台に“知”を求める人間たちの葛藤を圧倒的な熱量で描き、マンガ大賞2021第2位、文化庁メディア芸術祭優秀賞などを受賞。難解な哲学的テーマをエンタメ作品として昇華させる手腕は高く評価されてきました。
そんな魚豊が次に挑んだのが、現代日本を舞台にした本作『ようこそ!FACT』です。本作では、ネット上で拡散される陰謀論にのめり込む若者たちを軸に、情報と感情が錯綜する現代社会の「リアル」に切り込みます。
陰謀論がもたらす分断や孤立、そしてそれに抗う“教養”という知的営みの力をテーマとしつつ、ストーリーは一見ラブコメのようなテンポ感で展開され、読者を一気に引き込んでいきます。
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今井むつみ先生のプロフィール
今井むつみ先生は、慶應義塾大学名誉教授で教育研究所長代表でもあります。1989年慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。94年ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.取得されています。
慶應義塾大学環境情報学部教授をへて現職へと赴任。専門は認知科学言語心理学発達心理学です。主な著書に『何回説明しても伝わらないのはなぜ起こるのか』や『学力喪失』などが挙げられます。共著には、『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』などがあります。
『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』では、人は分かっていても、間違い、偏った視野を持ち誤解するものだと説明します。だからこそ、どう学び、人とつきあえば良いのか?社会をどう生き抜いていくかを考えることが大事と語られています。
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『ようこそ!FACT』の物語を追いかけながら、人が偏った視野を持つ心理に至るのか?『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』を元に人間の心理について考察していきます。
『ようこそ!FACT』のあらすじとして【ネタバレあり】

『ようこそ!FACT』は、主人公「渡辺」が、派遣社員として働く現代日本を舞台に物語は始まります。19歳フリーターとして働く渡辺は「人生が、始まっている気がしない」と、将来への暗澹たる思いを抱えながら職場と自宅を往復する生活を送っています。
行きずまった人生を打破しようと、渡辺は色んなイベントや自己啓発セミナーに出向いては人生逆転のきっかけを掴もうと努力しますが…

思い込みでは世界は変わらない。君は選ばれしものじゃない。
自己啓発セミナーの主催者から「選ばれしものじゃない」と言われてしまいます。一発逆転を狙う渡辺でしたが、結局は現実を思い知るだけで終わってしまう結果となりました。
非正規雇用と正規社員という社会構造。「選ばれしもの」と呼ばれる、成功者と搾取される側の人間という大きな壁(絶望)を抜け出すためには「恋をしろ」とセミナー主催者からアドバイスをもらいます。
自分の将来への展望を見いだせない渡辺は、「自分じゃなく、世界が間違ってくれればと期待している頭の悪さ」に思い悩んでいる時に、トラブルに遭遇します。颯爽と現れ、渡辺を救う彼女「飯山」こそ、絶望から抜け出す光(希望)に見えました。
「思い込みでは世界はかわらないかもしれない。」
「でも、きっと自分は変えられますよ。」
「それは、世界を変えるくらい重要なことです」
引用:『ようこそ!FACT』vol1: ~64・65ページより~
と、飯山さんは渡辺を諭します。一目で恋に堕ちた渡辺は、飯山との距離を縮めようと努力をするのですが、飯山さんのことを知るほど、会話の節々から知識格差があることに気がついてしまいます。
アカウント名「FACT東京S区第二支部」
想いを伝えたい渡辺の心の内をのぞき込むかのように、ある日SNSを通して渡辺は不思議なアカウントの存在を知ることとなります。アカウント名「FACT東京S区第二支部」と書かれていました。
飯山を守るため、渡辺は不思議な組織「FACT東京S区第二支部」へ侵入を試みます。そこで待っていた人物、「先生」と出会います。渡辺は、先生との出会いを通じて「陰謀論」へと踏み込んでいきます。
陰謀論組織「FACT」支部のリーダー的存在である「先生」から、「選ばれし者」と呼ばれたことをきっかけに、「この世界は虚構である作り物」であり「君の人生を阻んでいる黒幕がいる」と知らされます。渡辺は、『ディープステイト』という存在を知ることで「目覚める」こととなるのでした。
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ハンドサイン”666”悪魔の数字
「大いなる陰謀」や「闇の組織」と、言われて混乱する渡辺に、先生は右手の親指と人差し指で輪っかをつくります。小指と薬指に中指を添えて意味深なポーズを渡辺に見せて言います。
「指が数字の6に見えませんか?それが3つ重なっている。つまり、これは」
「“666”悪魔の数字、奴らのハンドサイン、シンボリズムの一つだ。」
引用:『ようこそ!FACT』vol2: ~5ページより~
DS(ディープステート)は権力者です。芸能人やセレブ、インフルエンサーが、DS(ディープステート)にすりよるためのポーズ(ハンドサイン)こそが“666”悪魔の数字だと、先生は喝破します。そのうえで、真実を知ると見えてくる蛇とは誰なのか…(作中ではあきらかにされていません)!
渡辺は、先生との会合を終えて帰宅の途に着きます。「ありえない!」「酷い妄想(アホ)だった!」と憤慨しながら道を歩いていると、飯山さんと歩く、とある男の姿を発見します。
仲良さげに振る舞い、無邪気な笑顔を男に向ける飯山さんの姿。そんな二人を遠く眺めることしかできない渡辺。その夜、飯山さんのSNSから、その男の正体を掴みます。
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ライバル「平子蛍」の登場
渡辺は、飯山さんのSNS「W大学サークルアカウント」から、一緒に歩いていた男と同じ画像と名前を見つけます。Google検索エンジンに男の名前、「平子蛍」と検索をかける渡辺。すると、平子蛍の記事がいくつもヒットします。
「山梨出身。幼少期、虐待と貧困に見舞われ、一時通学も困難に。」
「自身の経験をもとに不登校生徒への「頼れる隣人の偏在と周知迅速なアクセス」を目標とし高校卒業後、NPO法人『ペリパトス』を設立。」
引用:『ようこそ!FACT』vol2: ~33ページより~
渡辺の一つ上、20歳の平子蛍は、幼少期は虐待を受けて高卒で貧困。上京してNPO法人を設立。受賞歴やテレビでレギュラーもあり、英語で話す動画を見て渡辺はショックを受けます。
同じ、高卒で「派遣社員」として働く渡辺。一方、NPO法人を立ち上げインフルエンサーとして活躍する平子の存在を、ネット検索で知ることで渡辺は対峙せざるを得なくなります。
「こんな凄い人がいると俺の人生が、全部ただの努力不足になってしまう・・・」
飯山さんと平子と渡辺が三人で話していても、専門的な概念が飛び交う飯山さんと平子の会話の内容についていけない渡辺。二人に話を振られても…「それって、ただの感想ですよね?」と言うツッコミが聞えてきそうな空気に、渡辺は居場所を奪われてしまう錯覚を覚えてしまいます。
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居場所を求め「FACT東京S区第二支部」へ
「毎週水曜日に会合(ミーティング)があります。」という言葉に導かれるように、渡辺は「FACT東京S区第二支部」への会合に参加します。「FACT」とは、全国の危機感を持った有志が組織した集団だと教えられます。先生は、S区第二支部の呼びかけ人で、「FACT東京S区第二支部」のアカウントを管理していると紹介されます。
「敵はいるけど、ボスはいない」という横の連帯感が強みだと言われた渡辺。初心者でも遠慮せずに意見してくださいと先生に促され、渡辺は話し始めます。
「仲良くさせてもらっている女の子がいて、ある日、その女の子と歩く別の人を見かけた」と、渡辺は話します。「気になって、その人のことを調べるうちに怪しいと感じた」と、照れながら渡辺は話します。
「最近……凄い売れててコメンテーターとかやってるみたいなんですが、」
「ここ一年で急に来だしたっぽくて、」
「だからなんかおかしいなと思って……」
「そしたらNPO?の代表とかしてて それは凄いんですけど、NPOって大企業からの寄付でやっているって話なんで……」
「もしかしたら そこで…」
「あ、怪しい企業と繋がって売れたんじゃって!」
引用:『ようこそ!FACT』vol2: ~60ページより~
「素晴らしい考察力だ」と、先生から言われ「君は、才能がある」と断言されます。周りのメンバーからも話を聞いてもらえることに嬉しさを感じる渡辺。「突拍子もない話だけれど…」と、前置きをしたうえで「俺とその女子(こ)狙われてるんじゃないかっていう…」と話します。
「どうだろうな、そんな個人をDSが狙うかな。」と、メンバーの一人に否定されたことで「調子のって話すんじゃ…」と、後悔しかけた渡辺に先生は言います。
「君は今日まで否定され口を噤(つぐ)まされてきた。」
「それで普通(しょうがない)と思い込まされてきた。」
「そして反論を奪われ、」
「感情を奪われ、人生を奪われた。」
「そんな人間が今、ここで一歩、進もうとしている。」
「取り戻せ。」
「君の声で 君の人生」
「全部。」
引用:『ようこそ!FACT』vol2: ~65ページより~
渡辺は、「ありえないかも しれないですけど、一応」と断った上で、ポケットから携帯電話を取り出しSNSをメンバーに見せます。そこに写っていた画像はまさしく「爆弾」でした。
「“666” …それを片目にって。」「“プロビデンスの目”」と、メンバーたちは騒然となります。「君が正しかったかもしれん」と、自分の意見を受け入れられたことに、渡辺は驚きの表情を見せます。
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世界の真実に一歩踏み入れる
渡辺は、「いや、だって俺…普通に、頭悪いし」と、自分の意見が周りに受けれられるはずがないと思い込んだ表情で告白します。
「そもそもです。何故君は、自分の頭が悪いと?」と先生は疑問を挟みます。テスト?偏差値が低いと何故、頭が悪い?そこになんの関係がある?と、渡辺に問い詰めます。「学校の勉強ができなかった」と答える渡辺に先生は言います。
「その学校の教科書は、いったい誰が作っている?」
「根本から疑うんです。」
「つまり我々は、社会的に評価されるために、幼少から奴らの作った物を覚えさせられる」
「その真の目的は、」
引用:『ようこそ!FACT』vol2: ~70ページより~
「都合よく洗脳する…ため?」と渡辺は、懸命に考えたうえで結論を伝えます。「ほら、君のどこが頭が悪い?」と先生は断言します。「真実に気付かせないために不要な知識で頭いっぱいにさせる」、「疑問を持つ者を危険分子として排除したいの」とメンバーも説明します。「勉強すると、バカになる」そう、先生は結論付けます。そう、先生の答えは、渡辺が「世界の真実に一歩踏み入れる」瞬間でした。
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こうして、渡辺は陰謀論に目覚めることで、”選ばれしもの”として、飯山さんを救うために平子と対峙する決意を固めるのでした。
「陰謀論」と正しく向き合うための認知心理学

ここからは、今井めぐみさんの著書、『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』を参考テキストにしながら『ようこそ!FACT』を読み解いていきたいと思います。
「陰謀論」にハマらないためにも、認知心理学という概念を紹介します。自身の中の偏った視野や考え方を修正しながら、より良く社会を生き抜ける方法を考察していきたいと思います。
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そもそも「認知心理学」とは?
はじめに「認知症心理学」とは何なのか?という疑問を持たれると思います。認知心理学とは一言でいうと「そもそも」を問う学問だと、本書では説明します。先生も言いました「「そもそもです。何故君は、自分の頭が悪いと?」その、「そもそも」について考える学問が認知心理学です。
- そもそも人は、世界をどう見て(視て)認識しているのか
- そもそも人は、世界のどういう情報に注目し、処理し、理解しているのか
- そもそも人は、情報をどのように記憶しているのか
- そもそも人は、どのように知識を創っているのか
- そもそも知識とは何か。記憶や事実とどう違うのか
- そもそも人が思考し、判断し、意思決定をするとはどういうことか
- そもそも人が学ぶということはどういうことか
そういった「そもそも」を認知心理学では扱います。ウエブや本の中には、「学びとは?」、「記憶を高めるためには?」と言ったトピックで書かれた内容も多く出回っていると思います。
「学びとは?」「記憶を高めるためには?」と言ったトピックを扱った書籍や情報は、「そもそも学びをどうとらえているのか?」「そもそも学習とな何か?知識とは?」と言った視点があいまいなままで展開されていることが多いと、今井むつみ先生は警鐘を鳴らします。

具体的に「認知症心理学」を紐解きながら、『ようこそ!FACT』を解説していきます。
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人は論理的思考が苦手だった?
論理的思考の代表例として挙げられるのが「因果関係」です。私たちは常に因果関係を考えながら生活をしています。因果関係とは「原因→結果」というシンプルな論理で展開されます。
『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』では、必ずしも人間は「因果関係」の思考が得意か?というと、必ずしも得意ではないと言います。
たとえば「運動を定期的にしている人に、健康診断の結果がいい人が多い」という場合、多くの人は「定期的な運動で健康になれる」と考えがちですが、そうとは限りません。実は「そもそも健康だから定期的な運動ができている」(因果関係が逆)ということもあるでしょうし、そこに因果関係はそもそもなく、相関関係であって、単に時間的にシンクロしながら起こっている。つまり共起しているすぎないということも考えられます。
引用:『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』~57ページより~
私たちは「自分は論理的に思考している」と考えがちだが、実は「因果」と「相関」の混同が起こっていることもあり注意が必要だと解説します。
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「クライシスアクター」を因果関係で考える
飯山さんと知り合うきっかけになった、「あるサラリーマンに危害(あえてボカシて表現しています)を加えられそうになった事件」のことを、「FACT東京S区第二支部」のメンバーは「クライシスアクター」と言いました。
クライシスアクターとは、「演者、作り物」のことを指します。災害や大事件映像の「気の毒な被害者」は、ほとんどがクライシスアクターだと、先生含めメンバーは言います。派手な事件をでっちあげて、真に進行中の企てから目をそらすための目的に使われると話します。
渡辺は、会合の帰り道に偶然通りがかった通りで、信号待ちをしている平子蛍を見かけます。そしてその隣に並んでいる男こそ「危害(あえてボカシて表現しています)を加えられそうになった事件」のサラリーマンだったのです。この時、渡辺の頭に「クライシスアクター」が、疑惑から確信に変わりました。渡辺の「クライシスアクター」を因果論として考えると次のような公式になります。
※POINT:渡辺の「クライシスアクター」を「因果論」で考える。
(原因その①)『平子蛍はDS(ディープステート)である』
(原因その②)『あのサラリーマンはクライシスアクターである』
(結果その①)『二人はつながっている』
結論:飯山さんにDSが迫っている。

追い詰められた渡辺は、先生の自宅の戸を叩き飯山さんに迫る危機を打ち明けます。「クライシスアクター」として、サラリーマンと平子蛍との関係をかたる渡辺。説明を聞いたうえで、先生は断言します。「平子君は黒でしょう」「残念ながら間違いない」という結論を下します。
「クライシスアクター」を相関関係で考える
『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』で提示されました「相関関係」で「クライシスアクター(事件)」を考えます。
相関関係とは、2つの事柄が関わり合う関係のことを指します。一方が増えることでもう一方が増加または減少する状態を指すだけであり、それだけで2つの事象に因果関係があると判断できるものではありません。
因果関係は「ある/ない」と表現されることが多いのですが、相関関係の場合は「強い/弱い/ない」と表現されることが多いのが特徴です。
世の中に起こる「因果関係」の多くは、「疑似相関(因果関係があるように見えて実際は関係性はない事象のこと)」が多いと言われています。相関関係における、「疑似相関」という視点を持って、再度、次の文章を考えてみます。
渡辺は、会合の帰り道に偶然通りがかった通りで、信号待ちをしている平子蛍を見かけます。そしてその隣に並んでいる男こそ「危害(あえてボカシて表現しています)を加えられそうになった事件」のサラリーマンだったのです。この時、渡辺の頭に「クライシスアクター」が、疑惑から確信に変わりました。
※POINT:渡辺の「クライシスアクター」を「相関論」で考える。
(相関その①)「クライシスアクター」を仕掛ける=『平子蛍はDS(ディープステート)である』
(相関その②)「クライシスアクター」を仕掛ける=『あの男と一緒に平子蛍が並んでいたから』
(疑似相関)『平子蛍はDS(ディープステート)である』→『あの男と一緒に平子蛍が並んでいたから』
結論:信号待ちをしている平子蛍とあのサラリーマンが並んでいた→(疑似相関)平子蛍とサラリーマンは関係があると(一概には)言えない。
『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』でも、相関関係についていくつかの例を出して解説しており、「疑似相関」の可能性を見破る難しさを説いています。
私たちは、日頃からごく自然に「なぜ?」を考える思考します。しかしときに(というより頻繁に)勘違いをして、決めつけているのです。
この世の中に、因果関係が断定出来るものは、実はとても少ないかもしれない。そう知っておくだけでも、擬似相関を因果関係だと勘違いしてしまう危険性を下げることができるのではないでしょうか。
引用:『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』~61ページより~

渡辺は、因果論を元に考察した内容をDSの歴史からさかのぼり、膨大な資料を創り上げたうえで、自分の結論を飯山さんに伝えます。飯山さんは、どのように回答したのでしょうか?
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陰謀論に対する飯山さんの回答とは?
「陰謀論」で論理武装をした渡辺は、飯山さんを呼び出しこれまでに起こった内容と迫りくる脅威について話します。「飯山さんは 多分、今。」「狙われている。」と伝えます。
動揺を隠せない、飯山さんは「誰に狙われているの?」と、至極まっとうな疑問を渡辺にぶつけます。渡辺曰く、その回答が「でぃーぷ、すてーと。」
あきれ果てる、飯山さんに「クライシスアクター」で起こった出来事も含め、渡辺は「因果論」で世界で起こっている出来事を説明しようとします。「で、でも!俺の調べだとそれに関して原因があって…」と、渡辺の言葉を飯山さんは遮(さえぎ)ります。
「いや、その原因って発想も そもそも胡乱(うろん)というか…」
「全てのことに原因(りゆう)があるって思考スキームの背景には構造的な欠陥があると思うんだ。」
「それは、進歩主義的な錯誤というか、充足理由律にとらわれる近代的認識の誤謬(ごびゅう)というか、基礎づけ主義すら一種の独断論であることはハンスアルバートかー…」
引用:『ようこそ!FACT』vol2: ~70ページより~
飯山さんは「因果論」を一刀両断で否定します。加えて、すべての事象に原因があるという思考スキームの背景には構造的な欠陥があると話します。
飯山さんが語る「思考スキーム」とは何なのか?考察していきます。奇しくも、私(やびっちょさん)のバック背景である(福祉及び)医学的知見からの引用となります。
思考スキームは「事実」「根拠」「行動」という3つから成り立ちます。事実とは自分が「何を見たか」ということ、行動は「見たこと(事実)に対してどのように働きかけるか」、根拠は「事実から行動を判断するための価値基準(理由)」です
引用記事:「多職種連携でわかりあう」は可能か ~思考スキームで、他者の考えを視る~ | ナース専科
結論から言うと「でぃーぷすてーと」という、見たことも聞いたこともない。ましては、憶測のみで行動する渡辺に対して、「それは間違っているのでは?」と飯山さんはメッセージを送っています。
安易に提示された渡辺の因果論に対して、否定から入らないという飯山さんの「知的誠実な態度」だとも言えます。その対応に対して、「飯山さんの知らない隠された”世界の真実”もあって」と…説明を続ける渡辺を遮ります。
「渡辺君が世界の真実を知ると思わないから。」
「渡辺君だけじゃない。勿論(もちろん)私もそう。」
「この世には各分野や時代に私達なんかより よっぽどすごい人がいる。」
「その牙城は一朝一夜じゃ崩せないと思ってる。」
「それが、私がこの世界に対して持っている自身なんだ。」
引用:『ようこそ!FACT』vol2: ~136ページより~
飯山さんの説明に対し、渡辺は納得が出来ません。「このままだと、DSに洗脳される」と、飯山さんの身を心配し懸命に訴えます。ですが、最後まで二人の世界線は交わることもなく決裂に終わります。渡辺は、最後に飯山さんに言われた言葉だけが残ります。『陰謀論でしょ?』
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結論(まとめとして)

”選ばれしもの”渡辺が、陰謀論渦巻く物語を抜け出して飯山さんと相思相愛になれるのか?について、結論は『ようこそ!FACT』を手に取り結末を確認ください。
一方で、「認知心理学」のトピックとして「因果論と相関論」を補助線に陰謀論の危うさについても考察しました。今井なつみさんの著書『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』の内容の一端に触れたにすぎません。ぜひ、本書を手に取ってお読み下さい。
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私、個人的な意見としても「この世には各分野や時代に私達なんかより よっぽどすごい人がいる」と話す、飯山さんに深い共鳴を覚えます。「すべての原因は○○だった」では、人類の歴史や英知を学ぶ意味さえ無くなると思います。「陰謀論」に負けない「教養」を身につけてください。それでは、次の記事でもよろしくお願いいたします。
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